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愛の電化製品 [コラム]

 電化製品は随分便利な代物だ。ぱっと見回しただけでも、目の前にあるパソコンは電化製品だし、DVDデッキだって電化製品だし、エレキギターはその名の通りだし、全自動洗濯機だって電化製品だし、バイブだって電気の力で動いてる。もちろん携帯電話の機能のことだが、あのモード表示はドキドキするから何とかならんのかといつも思う。人間技を越えた振動で僕らを呼び出すそれは、ズボンのポケットに忍ばせておくとなんか、いらん本能まで呼び出してくれるから困るんだ。そんなロマンチックな夜を演出する前には、カウチでポテトでもキメながら小洒落たムービーでも鑑賞したい。

 僕らはソファに座って、テレビを眺めていた。買ったばかりのDVDデッキ。7000円。それを取り囲むように、5.1チャンネルのスピーカーとウーファーが適当に並べられている。それも込みで7000円。安い。あんぐりと口を開けたデッキにコンビニで買ってきた1980円の「ラストサムライ」を食わせると、僕はリモコンの再生スイッチを押した。「ぁポチっとなー!」「なにそれ」「ボタンを押すときの由緒正しい掛け声だ」「ふぅん」そして、タイトルバックが画面に流れ始めた。「やけにうるせえデッキだな。80年代前半以前の共産主義労働者がこれでギャラは一緒とか言いながらヤケクソで作ったロック的なデッキなのか?」「さあ?」ボヒョーン。振り向くと、ヒューズか何かがぶっとんだ音がして、デッキからまるで知恵熱みたいに煙が上がっていた。「・・・。」「こりゃまた随分漫画的だ。キャンディキャンディみたいに頭っから煙ふいてんぞ」「そんなことよりトムさんが見れないわ」

 どーやらこーゆー時は男の子の出番らしい。メカに強いのは男の子の傾向であり、そして、僕はドライバー1本で早速デッキの修理にとりかかった。「分解!」「なにそれ」「フェイスレス先生の真似」フタをあけると、基盤の上の電気部品が見事に爆発していた。僕は軽く手を合わせると、見なかったことにしてフタを閉めた。ため息をつく。「どう?」「ヤツの生き様はロックだったよ」「え?」早すぎる死だった。人生を駆け抜けたあいつは、約二名のファンとDVD一枚を置き去りにして伝説となり、惜しまれながら逝った。最初で最後のステージは、オープニングが始まった時点での脳溢血だった。今頃きっと天国のジミヘン達とスポット浴びて同じステージに違いない。まさかラストサムライのかわりにDVDデッキのロックンロールショーを見ることになるとは思っていなかったので、僕らは途方に暮れていた。どっちかとゆーと、DVDデッキの方がラストサムライだったのかもしれない。

「あたしが見たかったのはDVDデッキのラストサムライじゃなくてトムさんのラストサムライなのよ!」
「思うに、僕らは電化製品に頼りすぎてると思うんだ。キミと浪漫チカルな夜を過ごすのに必要なのは、別にトムさんじゃないだろう?」
「浅野忠信さんでもいいと思うわ」
「いや僕は?」

 あの子はニッコリと微笑んだ。

 そして、家までプレステ2を取りに行くことになった。

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ロック的なDVDデッキはもういらない
めくるめく愛と情熱の駄目コラムブルース
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