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愛のズビズバー [コラム]

 ぶぇっくしょいてゃんでぃちきしょーめ、と謎の語尾をつけながらクシャミをすることはよくある。その後に手のひらの付け根の部分で鼻をこするのがポイントだ。ミュージシャンたるもの一度は東京に憧れるもので、クシャミも東京式でなければならないといった意味不明な理由によるものであった。まるで意味が無いことは言うまでもない。ちなみに関西式だと、ぶぇっくしょいわれかすーどこまでなめくさっとんじゃぼけぇほんまにーおんどれケツの穴から手ぇつっこんで奥歯ガタガタいわしたるどくらぁ、という、これまた謎の語尾をつけなければ作法に反するらしい。そーゆー不可解な作法が全国津々浦々にあるのかどーか知らないが、さしあたって鼻水をズビズバーとすすっている。シュビドゥバーと歌いながら。そんな風邪のメロディ。そんなあの頃の僕も、よく池にぶち落ちて風邪をひいていたものだった。

 おかあさまにおたずねしてみたのです。本日、わたくし風邪をひきまして候。つきましては学校を休んでもよろしいでしょうか。おかあさまはわたくしの額に手をやり、自らの額に手をやり、どーもよくわからなかったらしく、体温計を探す旅に出てしまいました。わたくしは当時ハヤっていた、なるほど・ザ・ワールドのエンディング曲のように世界が廻っておりました。ぶっ倒れそうな息子を放置プレイさせながら、満面の笑みを浮かべて体温計を持って戻ってきたおかあさまは、それをわたくしの小脇にはさみこみました。体温を示す水銀が38度線を突破しておりました。わたくしの体温が朝鮮半島でなくてもヤバいことになっておりました。おかあさまは言いました。肩に手をやり、こう言いました。「気合と根性よ」わたくしのおとうさまとおかあさまの世代とゆーのは、巨人の星を代表とするスポ根世代でございました。おかあさま、おかあさま、わたくしには、大リーグボールを投げることも打つこともできそうにありません。ましてや身長くらいあるビル解体用の鉄球を鋼鉄のバットで打ち返す練習とか無理です。絶対無理です。あの花形満の前髪からして無理があります。おかあさまは、やはりタフでハードボイルドな笑みを浮かべて言いました。「気合と根性で治る」おかあさま、一体何がしたくて体温計を使ったのですか。

 場末のバーのカウンター。ぶぇっくしょいてゃんでぃばろちきしょう。「どうやら、風邪をひいたようだ」女の子ベイベーは、無言でスツールを一個ズレて向こうに行った。「・・・うつさないでよ」今なら妖怪人間の気持ちだってわかるような気がした。両手の人差し指と薬指を折りたたんで「あやしいもんじゃないよう」などと言ってみる。さらに向こうに行った。早く人間になりたい。僕はマスターにエッグノックを注文して、人生を語り始めた。女の子ベイベーを口説くには絶好の、田村正和先生ばりの鼻声だった。「王子と玉子はよく似ているな、どちらもキミが必要だ」

「早く風邪治せば?」
「つめてぇな」
「熱くなればいいのよ」
「とっくにお熱さ」
「汗かくといいのよね」
「手伝ってくれるのかい?」
「手伝ってあげてもいいわ」

 実にエロ本的な近未来予測を立てていた。

 まさか、それがこの場で、気合と根性によるスクワット100回だなんて思わなかったからだ。

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風邪っ弾きのズビズバー
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